フヘンテキロマネスク
「真咲、」
もう一度名前が呼ばれて、とうとう終わりが来るのだと悟った。じっと真っ直ぐに見つめてくる双眸を、静かに見つめ返す。
泣いて縋ったとしても意味などないと、もうわかっていたから。
目の前の彼が口を開くその瞬間、どんな言葉が飛び出てくるのかなんてわかってるのに、掌にはじわりと汗が滲んで、心音がいやに響いていた。
苦しい。苦しくて、早く解放されたい。
だから早く言ってほしい。
「……ねぇ、真咲はどうしたい?」
けれど耳に届いたのは予想とは違う言葉で。
「…それ、私に聞くの?」
「……だよね。ごめん」
彼は気まずそうに目を逸らす。他に好きな人ができたとは言えたくせに、肝心の言葉は言えないのは彼らしいなと思った。