フヘンテキロマネスク
なおも私の頭を撫でる心地いい手の感触に目を瞑る。するとふいにざわめきが増したかと思えば、
「田代さん、心配しなくても俺がいるからいいよ」
昨日聞いたばかりの鈴本くんの声がすぐ近くで聞こえた。驚きのあまり咄嗟に目をひらいて振り返れば、当たり前のことを言ったかのように堂々としている鈴本くんと、目をぱちくりさせている日菜。
「え?なんで鈴本くんが?」
「なんでって……ね?」
首を傾げる日菜に、なぜか含み笑いをする鈴本くん。日菜が「どういうこと?」と私に目配せをしてくるけれど、私だって突然のことに頭が追いついてない。
もしかして、昨日言ってた『上書きする』って本気だったの?
あの後結局私は否定も肯定もせず有耶無耶なまま、予鈴のチャイムが鳴ったことを理由に逃げてしまっていたのに。
困惑しつつも、探るような周りの視線を感じてすぐさま冷静になる。