フヘンテキロマネスク



「…私もそう思ってたんだけどね。でも、人の感情は案外簡単に変わるんだなぁって思ったよ」



私たちの世界にはいつだって変化が渦巻いていて、その中でなにも変わらないでいられることの方が少ない。人の気持ちなんて、それこそあっという間だ。


自分が信じていた気持ちですら、簡単に崩れ去っていく。まるで砂の城のように。


ちょっとした言葉選びの間違いで一生懸命築き上げてきた人間関係に亀裂がはいったり、昨日まで苦手だった人の優しさに触れただけでコロッと印象が変わったり、私たちはそんな、複雑に絡み合っては容易く千切れてしまう、糸のような脆いつながりの世界で生きている。




「―――じゃあそれなら、真咲も早く忘れちゃえば?」


ふいに、空を見つめていた鈴本くんが、またあの瞳で私を見据えてくる。



「え?」

「ねぇ、早く心変わりしてよ」

「……いや、え?」


いったい、それはどういう意味なのだろう。


まともに言葉も返せない私を、鈴本くんはフッと笑って、突如私の手からスマホを攫っていく。
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