フヘンテキロマネスク
「保科くんが幸せなら私はそれでいいと思うよ」
なんて、空っぽな言葉。
「えーほんとに?私なら絶対自分より先に幸せになるの許さない。不幸になれって祈る」
「……いや、それはさすがにこわい」
「ちょっとマジトーンで引かないでよ。でも勝手な都合で振っといて自分だけさっさと幸せになるとかイラってこない?」
確かにその気持ちはわからなくもない、かもしれない。
別れ話の時、肝心の終わりの言葉すら言い淀んだくせに、いざ終わらせてしまうと案外呆気なく次に進んじゃうんだ、って。たった今保科くんのことを聞いた瞬間、少なからずそう思ってしまったから。
日菜に「やっぱりその気持ち少しわかるかも」と同調するように呟けば、日菜は「でしょ!?」と前のめりになる。
「まあ別れ方にもよるんだろうけど、私はあいつには本気で罰が当たってしまえって思う」
特定の人物でも思い浮かべてるのか、苦々しく顔を歪める。その手に握られた紙パックが少し凹んでいるのを見て顔が引き攣ってしまった。いったい日菜の元彼は何をやらかしたんだろう。