フヘンテキロマネスク
「…ごめん、ありがと」

「いいよ、俺がやりたくてやったことなんだし」



ほら、またそうだ。

そうやって優しく笑われると居心地が悪くなる。私はその優しさに何も返せないから居たたまれなくて。



「……鈴本くんは、どうしてそこまでしてくれるの?」



言葉を絞り出していく途中で恥ずかしくなって、語尾が上擦った。


ちょうど階段を降り終わったところ。昇降口の手前でふたり揃って立ち止まる。



「……そこまで?」

「なんていうか、こうやって一緒に帰ったり、……上書きしていくような、」



私の名前を呼ぶのも、私のロック画面を変えたのも。


最近の鈴本くんの行動は、保科くんがいなくなったことで私の日常にぽっかりと空いた穴を埋めて、上書きしているみたいだと思った。


実際に鈴本くんも『上書きしてあげようか?』って言ってたから、きっとそういう意味で合ってるんだろう。


私としては、鈴本くんの行動に救われた部分はもちろんある。1人で抱え込んでいた気持ちを軽くしてくれたし、気も紛れたし。


でもその一方で、頭の片隅でふいにチラつく違和感があった。


その違和感が何なのかはまだよくわからないけれど。
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