フヘンテキロマネスク
授業後、返ってきた教科書には丁寧に付箋でお礼が書かれていて、マメな人なんだなぁという印象を抱いたことを覚えている。あと、字が綺麗なんだってこともこのとき知った。


クラスも違ければ部活も委員会も違う私たちは、それ以外まったく接点なんてなくて、ただ教科書を貸しただけ、それだけで終わるはずだった。けれど、教科書を貸して以来、廊下で会う度に保科くんが話しかけてくれるようになって。


そんな私たちに変化が訪れたのはそれから1ヶ月後、もう一度保科くんに教科書を貸したときのこと。


返ってきた教科書には前みたいに律儀にお礼の言葉を添えた付箋が貼られていた。けれど前回と違ったのは、保科くんのLINEのIDがちょこんと書かれていたこと。突然のことに気恥ずかしくなりつつも、消した跡のあるそれに微笑ましくなったりむず痒くなったりして。


その付箋を無視するという考えは、不思議とまったくなかった。


それからは頻繁に連絡を取り合うようになって、たぶんじわじわと気持ちが膨らんでいったんだと思う。


はじめて誘われて映画を観に行ったその日の帰り道に告白されたとき、どうしようもなくうれしかったことも、まだまだ鮮明に思い出せる。
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