フヘンテキロマネスク

「……自分でもどこを好きになったのかはわかんない。たぶん、気づいたらって感じだったんだろうな」


質問の答えというより、ひとりごとに近いものを呟く。


『真咲』って呼ぶ声とか、姿勢のいいまっすぐな背中とか、濁りのない瞳とか、マメで真面目なところも優しいところも好きだったけど、何が決定打ってわけでもなかった気がする。

いろんなところひっくるめて好きだったから。




「……なにそれ」

「いや、なにそれって」


1歩前を歩く背中が不貞腐れたような表情で振り向いた。


……いや、不貞腐れてるとは違うな。



「そんなの、もうどうしようもないじゃん」



ぎゅ、と眉に皺を寄せて悩ましげに目を細める、その表情はなにかを堪えるようで、力んでいるようにも見えた。