フヘンテキロマネスク
「……真咲、怪我したの?」



保健室のドアを開けて入ってきたのは鈴本くんだった。


「怪我ってほどじゃないけど……。鈴本くんの方こそ怪我したの?」



パッと見た感じでは怪我してる様子はないけれど、単に服で見えないところなのかもしれない。


それにしてもなんてタイミングなんだろう。早いとこ氷嚢作って戻ろう、と止めていた手を動かす。すると、いつのまに近づいていたのか、すぐそばで鈴本くんの気配がした。



「俺は真咲が保健室に行くのが見えたから」



だからってなんで?と浮かんだ疑問を遮られるように、横からそっと、腕をやんわり捕まれる。じ、と淀みのない目で腕を見られるから、気恥ずかしくなってじんわりと手に汗が滲んで。「痛い?」と労わるようにそっと優しくなぞる指先がやけに冷たく感じた。


「いた、くはないけど」

「ほんとに?」

「うん。いつもバレーのとき結構こんな感じだし」



「そう」と納得しているのかしていないのか掴めない不明瞭な返事をすると、私の手元から袋を取って手際良く氷嚢を作っていく。
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