フヘンテキロマネスク





ピー、と笛の音が鳴って試合が終わる。一列に並ぶと「ありがとうございました」とまったく揃ってない挨拶をして、目の前にいる相手と形式的に握手した。


「おつかれ(なぎさ)


爽やかな笑顔が憎たらしい、と思いながらも同じように「遥輝もおつかれ」と返す。


マンションが同じってことから、遥輝とは物心ついたころからの幼なじみだ。


遥輝のことは別に嫌いじゃない。一緒に育ってきたから兄弟みたいな感覚だし。


でも、


「なんか今日やけに気合い入ってたじゃん」


無自覚で人の痛い部分をついてくるところは好きじゃない。


「べつに。ただの気分」


俺が勝手に遥輝との勝ち負けで賭けてたなんて、そんなことわざわざ言う気にはなれない。どうせこいつのことだから事情を知ったら「賭けとかヘタレかよ」とでも言うに決まってる、ほんとに憎たらしいったらない。


……まあ肝心なところで踏み込めないからヘタレって言われても否定できないけど。


だけど、ストレートに『好き』って言って振り向いてもらえるんなら、最初からこんなに苦労してない。


真咲はまだ遥輝のことが好きだから、今伝えたって答えなんてわかりきってる。だから必死になって少しずつでも真咲の中から遥輝を消そうと思ってたのに。
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