【SR】秘密
真っ赤な顔をして、噛み合わない会話と視線。


その曖昧な表情を何と表現すれば良いのか……。


「さ、最近……よく飲むお客様が多いから。若い客層だし……。」


「昨日の今日で悪いんだけど、桜は染まってなさそうだし、頭が切れる。
仕事ぶりを一目見ればわかるよ」


貴一さんが柔らかく微笑みながらあたしを持ち上げる。


この人、職場じゃモテるだろうな……。


そんな事を考えていたら、衝撃的な言葉が降ってきた。


「桜、実はこいつ、刑事なんだ。
君を見込んで頼みがある。
あぁ、顔は笑っていた方がいい」


そう言われて、笑顔を装着したまま頭の中では警鐘が鳴り響く。


「……ジェミニの……店の事?」


思い出しそうな過去を必死に押し戻す。


「一時世間を賑わせた事件、キーワードは酒。
それ以上は外で話す。
今日仕事が終わったら連絡くれないか」


氷とウーロンをグラスに継ぎ足しながら、背中に汗が伝う。


「刑事さんなら危ないことは無いよね?
いいよ……わかった」


貴一さんと刑事さんはほっとした様に顔を見合わせる。


「とりあえず、売り上げには貢献するよ。何でも頼んで。女の子も呼んでくれる?」


あたしは頷いて遠慮なく注文した。


そしてトイレに立ったあたしを見つめる異常な視線に、やっぱり気付けないまま……。
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