【SR】秘密
……・……・……・……
手持ちぶさたな俺はぼんやりと桜を見ていた。
ひらりひらりと舞う桜は蝶の様だ。
テーブルからテーブルへと忙しく行き来する桜を見て思う。
装いに焦りはなく、口と手はずっと動いている。
間違いなくこの少女は客に夢を与えている事だろう。
この娘は、もっと日に当たる場所で輝けるのに。
そう、幸せな結婚をして幸せな家庭をつくって…………。
子供達に笑いかける姿がきっと何より似合う。
必死に色んな事を隠して懸命に働く姿に、胸が切り裂かれる様に痛む。
桜を目で追う俺の隣では、ボトルの酒を次々と煽って一人でケタケタと笑っている女。
この店の中は、全てが狂ってる。
匂いも、熱気も、テンションも、人間も…………。
こんな世界があってはならないのに、次々と顔を出し繰り返される悪夢。
おかしいと思い始めてからの転がり様は凄まじく、さめざめと泣く人々の幻が浮かび上がる。
「ごめんね、なかなかついていられなくて。
連日オープンラストで来てくれてる上に今日は…………。」
時々戻ってくる桜は、来る度に申し訳なさそうな顔をする。
それが、プライベートで協力しているという優越感を抱かせ、自尊心を満たしてくれる。
俺は、ここにいる連中の中で特別。