【SR】秘密
「特別に事情聴取は後回しにするよ。
せめてもの罪滅ぼしだ。
……話す事も、あるんだろう?」


そう言って友人が出て行った後、桜と俺は時間が巻き戻った様にふたりきりになった。


ただ、空気はひどく重苦しい物に変わっていたが。


「……やっぱり、何か入ってたのね」


俺は桜の表情を見れずに沈黙で返事した。


「……外は寒かったでしょ、上着も着てないままだもん。
コーヒー、入れるね。傷の手当てもしないと」


そういえば、身体中が冷え切っていた。


熱いコーヒーが身体を溶かす様にジンジンと作用する。


「桜、痛い所は無い?俺、部屋に乗り込む時夢中でぶつかって……」


「ちょっと転んだだけだから大丈夫。
それより……ありがとう、本当に。
これでやっと安心して眠れる」


腕の手当てをしながら健気に笑う桜を見て、胸がぎゅっと詰まる。


包帯をくるくると巻き終わると、座いすに座り込んだ。


「あ~あ、これで収入が無くなっちゃった。どこか、他のキャバで働こうかな。
せっかくスキル積んだんだし。
そうしたら貴一さん、また来てくれる?」


コーヒーカップを両手で持ちながら悪戯に微笑んだ。


「駄目だ! だって桜は……」


はっとして思わず自分の口を覆い隠し、次の言葉を飲み下した。


くすりと桜が笑う。
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