【SR】秘密
マトモな時間の生活になったせいか、元々良かった成績はトップを争う程になり、人気のますます上がった桜に気が気じゃなかった。


それを知ってか知らずか、校内の見えない所で俺に向かって悪戯に微笑むんだ。


まるで、桜そのものが麻薬の様。


ハマって止められなくなり、どんどん足りなくなって禁断症状がでる。


制服から覗く白くて細い足に何度眩暈を覚えた事か。


三十四歳にもなって情けない…………。


ふと手で持っている手紙にピンク色の花びらが落ちてきて上を見上げる。


気が早過ぎる満開の桜は、連日の温暖な日と雨のせいでもうその儚い命を潔く散らせていた。


……まだ三月だというのに。


河原沿いに咲く大きな桜の木の下。


ベンチに腰掛けた俺はもう一度手紙に目をやった。


“河原の大きな桜の 木

 日の落ちる頃

【1】”


「せーんせ、お待たせ。ちゃんと来てくれたのね」


長い髪に花弁を纏い、風に向かって煩わしそうな顔をしながら俺に話しかける声。


「桜。来るに決まってるだろう。
まったくご丁寧に七日前から毎日手紙なんか寄越して」


紺のコートから覗く制服。


携帯のストラップを覗かせている鞄を肩に掛け、卒業証書と花束を抱えた桜が悪戯に微笑んでいた。


鞄の小さなポケットから顔を出している、赤いハートのガラスが夕日に反射して思わず目を細める。


……今日は、俺の勤めるK高校の卒業式だった。
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