貯金500万円の使い方


 おにぎりを食べ終わるころ、8時のチャイムが遠くの方で鳴った。

 今日はほとんどボールに触れていない。

 何となく、こうして舞花の隣に座っていたかったから。

 だからそれからもしばらく動かないでいると、


「朝練、行かないの?」


 と舞花が聞いた。


「ああ、うん。今日の午前はバレー部が体育館使ってるから。今日は午後から」

「そうなんだ」

「うん」


 それっきり、会話はなかった。

 僕はただ、まだ舞花とこうしていたいなと思っていた。

 すると舞花が小さな声で言った。


「あのさ、お願いがあるんだけど、今から時間、ある?」


 舞花は言いにくそうに話しだした。


「午後の練習までなら空いてるけど」

「じゃあ、思い出巡りしていい?」

「思い出巡り?」

「うん。保育園とか、小学校とか」

「別に、良いけど」


 それはそれで楽しそうだと思った。

 舞花と一緒なら、何だっていいと思った。


「じゃあ、後ろ乗る?」

 僕は目で自分の自転車を指した。

 それを目で追った舞花は嬉しそうに「うん」と首を大きく縦に振った。



< 102 / 125 >

この作品をシェア

pagetop