貯金500万円の使い方


 僕だって、本当に舞花を避けたいわけじゃなかったんだ。

 だって僕は、舞花のことが好きだったんだから。


 転校することを知った僕は、動揺した。

 だけど何でもないふりをした。

 何も言わないまま時間だけが経って、三年生の終業式をもって、舞花は転校していった。

 舞花がいない学校。

 舞花の上履がない下駄箱。

 舞花の席がない教室。

 四年生に進級して、舞花の名前のないクラス表を見て、舞花が僕のそばから本当にいなくなってしまったんだと実感した。

 そこでようやく、僕は後悔した。

 俊平の言う言葉なんて気にせず、僕はいつも通り、舞花のそばにいたらよかったんだって。

 「舞花」って呼んであげたらよかったんだって。

 舞花がいなくなってようやく、僕はそんなことに気づいたんだ。

 
 僕は舞花のいない学校でぼんやりと過ごした。

 ぼんやりとバスケの練習をした。

 家でもぼんやりとしていた。

 今までぼんやりと過ごしていた休日を、さらにぼんやりして過ごした。

 ぼんやりにぼんやりを重ねて、テレビをぼうっと見ていた。

 そんな時だった。

 つけっぱなしにしていたテレビで、たまたまお百度参りを知った。

 僕はその内容にくぎ付けになった。

 そしてすぐに、僕はボールを持ってバスケットコートに走った。

 バスケットコートに着いてすぐ、僕は舞花が住んでいたマンションを見上げた。

 いつもそうしていたように。

 舞花の家の扉もすぐに見つけられるまでになっていた。

 僕はここで練習しながら、いつも舞花の姿を探してた。

 舞花が僕のことを見つけてくれるのを待って。

 目が合えば、手を振り合った。

 だけど、そこにはもう、舞花はいない。

 
 こみ上げそうになる涙をこらえて、僕はその扉を見つめた。

 
 100本じゃ足りない。

 1000本ぐらいじゃダメだ。だから……


__シュート1万本。

  シュート1万本決めたら、きっとまた、舞花に会える。

  絶対会える。

  もう一度会いたい。

  もう一度会うんだ。

  会って呼んでやるんだ、「舞花」って。

  

 そう信じた。

 そう願った。

 そう決意した。

 その扉に向かって。

 もうその扉の奥には、誰もいないのに。

 


 それから僕は苦手なジャンプシュートを打ち続けた。

 本当に下手くそで、コツも何もわからなくて、たまに上手く入ったシュートから感覚をつかむのが精いっぱいだった。

 悔しいけど俊平のシュートの仕方を密かに観察して、自分でやってみたりもした。

 もう何回ゴールに向かってボールを投げたかわからない。

 ゴールを見るのが嫌になるほど、僕は毎日、何時間もゴールと顔を突き合わせていた。

 何十本に一本がやっとのところから、何本かに一本入るようになって、次第に連続で入るようになった。

 そしてあの日、夏休みが始まって一週間たったあの日、僕はシュート1万本を達成した。

 その直後に、まるで真夏の空から舞い降りるように、舞花が現れたんだ。



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