俺の言うとおりにしてください、お嬢様。
逃げて隠れて泣いていた幼い俺に、無邪気に笑いかけてくれた4歳の女の子がいた。
有名財閥の娘だというのに、泥だらけになって庭ではしゃいでいるような子。
『…僕に…くれるの…?』
『うんっ!だからもう泣いちゃだめ!』
『───…ありがとう』
そこからだ、俺がいつかその子に仕える執事になりたいと願ったのは。
その少女の名前は───柊 エマ。
だから少女の姉の許嫁を自ら辞めてまでも、執事の道を選んだ。
「なに、じゃあ俺たちってかなりの物好きってこと?」
「…お前なんかと一緒にすんな」
「いや同じだろ。…少なくとも俺はあのわんころに興味がある」
まさかだった。
そんなふうに直接的に言われなければ理解できないほど、今の俺は余裕が無かったらしい。
「…お前にはアリサ様がいるだろ」
「別にいいんだよ変えたって。結局はどちらにせよ柊だし」
「“柊”なら誰でもいいってのか」
「だからそれはさっきまでって言っただろ。…泣かせちゃったからさ、申し訳ないと思ってんだよ俺だって」
まさか泣いちゃうとは思わないじゃん───。
いちばん可愛いところなのだ。
そして俺だけが知っておきたかった部分。
エマお嬢様は誰よりも繊細で、弱い心の持ち主だということ。
だから俺がそっと愛情を込めて包んであげたいと思っていること。