俺の言うとおりにしてください、お嬢様。
ヘアアレンジはシンプルかつ良く見ると執事の腕前が分かるもの。
そんな隠れた技術を発揮させるように、今度はわたしの前にしゃがんだハヤセ。
右手にメイクブラシ、左手に何種類もの色が揃えられているパレット。
優しくなめらかに、それはもうこなれた手解きで這わせられてゆく。
「本当はメイクもさせたくないです俺」
「…でも今日はさすがにっ」
「はい。ですので……絶対に応えてはなりませんよ」
ぎゅっと目を閉じてコクコクうなずいた。
その意味は早乙女 燐だけじゃなく、舞踏会に訪れる男全員が含められているんだろう。
彼らに誘われても上手く断ってください───ハヤセが言っている言葉はこれだった。
「わあ……!」
目をパッと開くと、その景色は今までと180度ちがって見えた。
鏡の前に映る自分は誰なのかと、わたしなの?と、何度も何度も問い質したいくらいだ。
すごい………今までと別人がいる…。
わたしってこんなふうにもなれちゃうんだ…。
「…とてもお綺麗ですよ、エマお嬢様」
「ありがとうハヤセ…!すごい、すごいっ」