俺の言うとおりにしてください、お嬢様。
静かにタカさんも部屋に入ってくる。
そっとわたしたちの様子を見守るように、地面を見つめていた。
「ところで、あなたはどちら様?」
「───…え……?」
「ごめんなさい。私の友達だった方かしら?記憶がないの」
記憶が、ない……?
もしかしてそれが後遺症なの…?って、思わずタカさんを見つめた。
ゆっくりうなずいてくれる彼は少しだけ歳を取ったように感じる。
「わ、わたしっ、妹のエマだよ…!」
「…妹?おかしいな、家族のことは覚えてるはずなのに…」
「え…、」
お父さんのことは覚えているらしい。
タカさんのことも、この屋敷に仕える使用人全員のことも。
それなのにわたしのことは覚えてない……と。
そんな都合の悪い記憶喪失ってあるの……?
これってドッキリじゃないの…?
そう思いたいのに、お姉ちゃんがそんなことするはずない…。
「軽い記憶障害です。アリサさんは事故の影響で自分にとって悪い思い出が消えています」
いつの間に出てきたの、主治医と思われる白衣の男は。
いや、最初からいたのかもしれない。
わたしが気づかなかっただけで。