俺の言うとおりにしてください、お嬢様。
「破傷風にならないようにしなくてはいけないので、またあとで見せてくださいね」
「え、こんなの舐めておけば治るよ!」
「駄目です。お嬢様の大切な手ですよ」
そんなことを言われると緊張してくる。
なんか分からないけど恥ずかしい。
こんな扱いを受けていい人じゃないのにわたしは。
ほらほら、クラスメイトのすっんごいジェラシーに満ちた目よ…。
「樋口、お前は帰っていい」
「え、でもまだ仕事が…」
「仕事?…お前は執事失格だ、今すぐに辞めろ」
執事同士の会話というのは、どこか不思議。だっていつもは必ずわたしたちには敬語だから。
彼らが対等に誰かと話す素の瞬間が見れて、わたしは好きだ。
でも今はちょっとだけ怖く、ピリピリした空気が流れてる。
「穴埋めは俺がする。辞めたいんだろ?こんな“仕事”は」
彼はもう1度、強調するように言った。
「だとしてもお前は“仕事”の1つもできていないがな」
“仕事”と言い切った樋口が許せないらしい。執事同士の会話はわたしにはやっぱり難しいところもあって。
そして樋口は言葉すら失ってしまった。