俺の言うとおりにしてください、お嬢様。




「とても上手にできていますよ、エマお嬢様」



毎朝と放課後の日課も、マンションでの生活も、授業中も。

いつも間違えてハヤセの名前を必ず1回は呼んでしまって、それで悲しくなっての自爆だ。


執事じゃないくせに名前を呼ばないで。

執事じゃないくせにどうして触ってくるの、どうしてそんな目で見てくるの。



「ハヤセ……、」



震える声は小さく小さく呼んでしまった。


すると伏せていた眼差しがわたしを見つけてくれて、それだけで寂しさが少しだけ消えた気がするのに。

それなのに、もっともっと寂しくなる。



「わ、わたしのところに───」


「真冬くん!」



戻ってきて───…。


戻ってきてよ、お姉ちゃんのほうになんか行かないで。

本当はそう言いたい。



「アリサ様、どうかされましたか?」


「もう教室に戻りたいの。食欲がなくて」


「…わかりました。行きましょう」



わたしからスッと離れてしまった手。

その体温が無くなってしまっただけで、何よりの孤独に飲み込まれてしまったような気持ちになる。


行かないでハヤセ、ここに来て。

わたしの執事はあなたしかいないのに…。



< 236 / 340 >

この作品をシェア

pagetop