俺の言うとおりにしてください、お嬢様。




なんでもない、と男は嬉しそうに微笑んで受け取ってくれる。


本当は俺からサプライズでエマに渡すつもりだったけど、それってかなりズルいことだと思った。

それにこいつからじゃないと意味もないだろうし。



「───…はや…せ…?」



微かな声で小さく呼ばれた名前に、すぐにSランク執事はベッドに眠る女の子を見つめた。



「具合はどうですかエマお嬢様」


「…なんで…いるの……?」


「あなたのことを一番わかってるのは俺です。早乙女なんかに任せてはおけませんから」



おい、なんだそれ。

それでも今までとはまた違った視線が俺にも送られていること。



「ハヤセ……戻ってきて、…さみしい、」


「…エマお嬢様、」


「お姉ちゃんのほうに……いかないで…、わたし、もっとちゃんとするから…、恥ずかしい思いも……ハヤセにさせない、」



熱があるからこそ言ったのだろう。

いつもの元気さはどうしたんだってくらいに弱々しい姿だ。



「嫌です。もっと俺のことだけを考えて泣いてください」



うわ、こいつはかなり欲深くて意地悪な男なんだと。

なんでそんな嬉しそうな顔して言ってんだよ。せめて熱のときくらい優しくしてやれよ…。


エマ、この男は俺よりぜったい苦労すると思うよ?



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