俺の言うとおりにしてください、お嬢様。
あなたがそれを言うのですか───と、樋口の声に出さない言葉を静かに受け取って。
ホウキ、塵取り。
ごく一般的なお掃除セットを持ち出して花瓶のお片付け。
「高そうな花瓶…。またみんなに呆れられちゃうね…」
わざとじゃないんだよ。
本当にわざとじゃなくて、たまたまぶつかっちゃっただけだった。
でも値段で言うと3桁はいってるはず…。
「これ接着剤とかでくっつけちゃだめかなぁ」
「エマお嬢様、あなたはもっとスタ女としての自覚を持ってください」
あ、略した。
聖スタリーナ女学院だと一々長いから、通称“すたじょ”なんて愛称で呼ばれていて。
そして樋口が言っているところは花瓶を割るなってことじゃなく、「そんな貧乏臭いことを言うな」ってこと。
「───なにをやってるんだお前は」
そんなとき、背中からかけられた声。
反応するよりも先に傍に立った黒いタキシード姿の男。
「か、花瓶を割っちゃって、」
「お嬢様にやらせるなんて…しかも素手。執事として失格だろ、執事学校からやり直せ」