俺の言うとおりにしてください、お嬢様。
「俺がどんなにあなたを大切に想っているか、いい加減気づいてください」
「…は、やせ…?」
初めて見る顔だ。
また知らない早瀬 真冬の顔を知ってしまった。
───あ。
「ハヤセ、水が飛んじゃってるよ」
わたしの肩に被せられていたタオルを取って、目の前の透き通るような肌に触れる。
そっと触れて優しく拭ってあげて。
それだけなのに緊張して震えてしまった。
いつもハヤセがしてくれるみたいに上手にできてるかなって。
「へへ、タキシードも濡れちゃったら大変だもんねっ」
「…エマお嬢様、困ります」
「え、困る…?」
もしかして、だめだった…?
確かに急に触っちゃって嫌だったかもしれない。あぁ嫌われちゃう。
呆れられちゃうって、少しだけ怖くなった。
「困るんです。…俺を困らせていること、そろそろ気づいてくれませんか」
「ご、ごめん…」
「いいえ、違います」
頬に添えられて、上を向かされる。
無理やりにも合わせられた目は、わたしの不安を解してくれた。
そうじゃないよって、言ってくれる。
「この意味が分からないようなら…いまは俺の言うとおりにしてください、お嬢様」
この執事だって気づいてない。
わたしはいつもハヤセに言うことを聞いてもらっているようで、実は逆だってこと。