ブラッド★プリンス〜吸血鬼と女神の秘密〜
第一章

ようこそ、白川村へ

 見慣れた街並みを離れて、車に揺られながら2時間が経った。
 緑が多くて、周りの家は赤やオレンジの屋根ばかり。まるでヨーロッパのような風景に、思わずため息が出る。

 木に囲まれたトンネル道を進み、抜け出すと青空が飛び込んできた。

「こんな場所に住んでみたかったのよねー! それにしても、白川村(しらかわむら)ってかっこよすぎない?」

 窓から身を乗り出して、隣でお姉ちゃんがはしゃいでいる。

「もう、危ないってばぁ」と腕をぐいっと引っ張った。

「田舎なんかに行きたくないんじゃなかったの?」

 あれほど嫌がっていたくせして、ころっと態度を変えるんだから。
 運転しているお父さんは、やり取りを聞いて笑ってばかり。

 こんな時、お母さんがいたらどんな話をするのだろう、とたまに考える。

 お母さんは、物心ついた時からいなかった。病気で亡くなったと聞いたけど、詳しくは知らない。
 優しいお父さんと、明るいお姉ちゃんがいたから、三人でも寂しくなかった。

 それなのに、お父さんの仕事の都合で、白川村に住むおばあちゃんに預けられることになったの。
 幼稚園の頃に会ったことがあるみたいだけど、ほとんど覚えていない。

 だから、私はお姉ちゃんみたいにウキウキして笑えないんだ。

樹里(じゅり)〜ッ、この丘下りていかなきゃだけど、高校一人で行ける〜?」
「大丈夫だよ」
「暗くなると危ないから、椿(つばき)が迎えに行ってあげてくれないか?」
「はいよ〜」
「大丈夫だってばぁ!」

 やっと口を開いたと思ったら、お父さんまで子ども扱いして。
 そりゃあ、高校1年生なんてまだ子どもだろうけど。もう子どもじゃないんだから。

 ぷんっと右を向いて、空を見上げた。雲ひとつない快晴。開いた窓から、さやわかな風が吹き込んでくる。

 もう少し上にある丘の方に、わさわさと木が見えて、そこからちらちらと見え隠れする白い家。あんな森みたいな場所に、なんの建物だろう。
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