ブラッド★プリンス〜吸血鬼と女神の秘密〜
「あら、分からない?」

 ヒッヒッヒッと喉を鳴らして、黒ずくめの女がこちらへ向かってくる。

「日に当たらない青白い肌。狙った獲物を逃さない鋭い瞳。血のように赤く染まった唇。いつでも冷たい死人の肌」

 キュッキュと草を踏みしめる音が大きくなって、すぐうしろで止まった。

「そう、ヤツは」
「ーーよせっ」


「人を()らう吸血鬼さ」

 そんなはずない。
 一瞬だけ頭をよぎった言葉が、胸を貫く。

 ルキくんは冷たくないし、死人の肌なんかじゃない。触れた手だって、胸だって温かい人の肌だった。

 まるで自分に言い聞かせるかのように、心の中で何度も繰り返す。

「心も感情もない。アレはただの器にしか過ぎない」
「もう、やめて......」

 ルキくんが人じゃないなんて、信じたくない。

 ガタガタと震える体を抑える。怖くて、動けない。

 冷んやりとした感触が肩に乗って、おそるおそる顔を上げる。そこには、ルキくんの手が置かれていた。

「……うそ、だよね?」

 ほんとに体温がないみたいな冷たさだ。

 切ない表情を浮かべるルキくんが、私の前へ立った。

「吸血鬼のくせに、人間を守るのかい?」

 黒ずくめの女が手を広げて、何かしようとした。
 そのとき、ルキくんの影からドラゴンのような青い炎が上がり、彼女の体を包み込んだ。
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