ブラッド★プリンス〜吸血鬼と女神の秘密〜
 抵抗する黒ずくめの女を、炎のドラゴンが締めつけている。

 怖くて目を閉じて下を向くと、うしろから優しく抱きしめられた。

「オレたちがついてる」

 そっと私の耳を押さえると、イリヤくんは電波のようなキィーッっという高い音を鳴らす。

 しゃがみ込んだまま動けないでいると、

「樹里チャン……助けて」

 弱々しく消えそうな声が聞こえてきた。

 焼き焦げた黒いマントが宙に舞う。ほろほろと灰になり、散っていく。

 そのベールの奥があらわになった瞬間、どくんと心臓が撃ち抜かれた。

「なん……で?」

 瞳に映り込むのは、痛々しい顔をした優希ちゃんだった。

「わたしは樹里ちゃんを助けたのに、樹里ちゃんはわたしを見捨てるの?」

 誰も素顔を見たことがない殺人鬼。その黒ベールに隠されていた顔が、優希ちゃんだなんて……。

「ここまで来るのに、長く我慢したよ」

 手を当てると、頬についた傷がつるりとなくなった。

「ただ1人の味方として、きみから信頼を得た」
「……やめて」

 立ち上がって、こっちへ歩いてくる。

 一緒に過ごした日々が、頭の中をフラッシュバックする。
 頭を伏せて耳をふさぐ。そんな言葉聞きたくない。
< 77 / 158 >

この作品をシェア

pagetop