ブラッド★プリンス〜吸血鬼と女神の秘密〜
 白い煙りが消えると、黒ずくめの女の姿はなかった。震え上がるような冷たさもない。

「……逃げたか」

 近付いてきたルキくんが、私の肩にあるイリヤくんの手をパシッと払う。
 眉をしかめるイリヤくんと、いがみ合うように見合っている。

 ……んん? なんだか、2人の間に火花が散っているのだけど、気のせい?

 ふいっとお互いに視線をそらして、ルキくんが私を見た。

「怖い思いさせて、ごめん」
「私の方こそ、忠告無視して、勝手な行動して……ごめんなさい」

 狙われてると言われていたのに。

「いや、俺がもっと気を張るべきだった。それと、ヤツは仲間じゃない。これだけは信じて欲しい」

 こくんとうなずいて、ルキくんの服をギュッと掴む。

 そんなに心配してくれていたなんて……。

「でも、どうしてルーガルの敷居に現れたのか」

 ルキくんのつぶやきに、黙っていたイリヤくんが口を開く。

「あんなに強い気を感じたのは初めてだった。アンタらの氏族とは関係ないのか?」

「ヤツらは吸血鬼の中でも、極悪と名をはせるディモラム氏族に属している。闇の暗殺者と呼ばれることも」

 物騒な単語がぞくぞくと出てきて、ぶるっと身震いが起こった。

「まだ油断はならん。みんな、こっちへ来るんじゃ」

 魔女の姿をした三上先生に連れられて、奥方にある小さな小屋へ向かう。

 その途中、三上先生が人差し指を空へ向けて、「アスファジダール」と唱えると、辺りを覆うようにして紫がかった(とばり)が降りてきた。

 結界(バリア)みたいなものだと、ルキくんが教えてくれた。
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