あやかし戦記 裏側の世界へようこそ
ボロボロに破壊されたテントの辺りからは、鉄の匂いが立ち込めていた。何の匂いかわからず、イヅナは鼻を押さえる。そんな中、ヴィンセントが言った。

「これは血の匂いだ。赤血球のヘモグロビンの主成分は鉄だから、人の血の匂いは鉄と同じ匂いがする」

「こんなに匂いがするってことは、フルール族の他の人はあの人より大怪我を負っているってことか!?」

冷静なヴィンセントに対し、レオナードは焦ったように言う。イヅナの胸に緊張が走る。よく目を凝らせば、地面には赤い血が海のように広がっていた。

「ひどい出血だわ。早く止血してお医者様のところへ連れて行かなきゃ……」

そうイヅナが言い、一歩踏み出すと、ポチャンと何かが頭の上に落ちてきた。雨のように冷たくはない。むしろ温かかった。

「何?」

イヅナが頭に落ちてきたものを拭うと、自分の指が赤く染まる。血だ。誰かの血が頭に落ちてきたのだ。

「ひっ!」

イヅナが悲鳴を上げると、顔を真っ青にしたヴィンセントとレオナードが「イヅナ、上!!」と叫ぶ。イヅナが上を見上げると、二メートルほどはあるだろう巨大の赤い怪物がいた。頭にツノを生やし、薄い布を体に巻き付けている。ニッと笑って見えた歯は鋭く尖っていた。この姿はーーーイヅナの祖父が教えてくれた鬼によく似ている。
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