あやかし戦記 裏側の世界へようこそ
以前、ギルベルトの講義を受けた際に彼は言っていた。全ての存在する妖が悪い存在ではないということを……。

『世の中にいるのは悪い妖だけじゃない。そのことは理解しよう。人間を助けたり、この騎士団に属していなくても護ったり、妖だということを隠して人の中で穏やかに生活している妖もいるんだよ』

ギルベルトの言葉を思い出していると、イヅナは誰かにぶつかり、そのまま廊下に尻もちをついてしまった。

「イタタ……。ごめんなさい、ぼんやりしてしまっていてーーー」

イヅナが顔を上げると、そこに立っていたのはチターゼだった。無表情のままイヅナを見下ろしている。しかし、その体は震えていた。

「チターゼさん?」

何かがおかしいと思い、イヅナは声をかける。すると、「何であんたみたいなのが!!」と怒声が響いた。感情を見せないチターゼが、初めてイヅナの前で怒りという感情を見せている。そのことにイヅナが驚いていると、チターゼに胸ぐらを掴まれて、怒りの籠った目で睨まれた。
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