あやかし戦記 裏側の世界へようこそ
イヅナは返事をして、薙刀を握り締めてゆっくりと歩いていく。ツヤが感情のない瞳でイヅナを捉え、最後の入団試験を受ける人間に対しての視線が集まっている。

「始め!」

ギルベルトがそう言った刹那、ツヤの姿が一瞬で消える。次の瞬間、イヅナは気配を感じて腹を守った。そこに蹴りが入る。庇ったとはいえ、ダメージがないわけではない。イヅナの体は吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。しかし、痛みに目を閉じているわけにはいかない。

イヅナが薙刀で防御体制を取ると、そこにツヤは容赦なくまた蹴りを入れてくる。それに負けじとイヅナも攻撃するものの、それはあっさりと避けられてしまう。

(一体、どうしたらツヤさんを斬れるの!?)

スピードが速く、高い攻撃力を持ったツヤとの戦いは、見ていた時よりずっと難しい。焦ってしまいそうになったイヅナの視界に、観客席でこちらを見るレオナード、ヴィンセント、アレンの顔が見えた。みんな、真剣にイヅナを応援してくれている。

(この人たちがいるなら、私は……)

イヅナは覚悟を決め、ツヤに背を向けて走り出した。
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