花の香
今年は金木犀がもう咲いたんだよ
去年より一ヶ月も早かった
この甘い香りが好きだった君のために
大切な日に君のそばにいるために、去年も今年も咲いたんだと思う
ここ数日涼しいから
今日は冬用の布団を出したんだ
その行為は、去年のあの日を思い出してしまう
あの日も明け方、寒さが身に染みたから
お布団出しておくねって言ったんだ
君は「うん!」って嬉しそうに答えたよね
私は今、君が使っていたベッドで寝ている
そうしたらわかったんだ
同じ部屋でも君の寝ている場所のほうがずっと寒かったの
ごめんね、いつも辛かったね
君を失ってそんなことに気づくなんて、私は本当にダメな人間だ
あの日は幸い天気も良くて
ふかふかにあったかくなった掛け布団にカバーを掛けながら
きっと君は喜んでくれるだろうってワクワクしてたのに
君は使うこともなく行ってしまったんだ
今夜はあったかく眠れるよ、って言葉をいつかけようかと思いながら
夜眠るときでいいかって思っちゃったんだよね
帰ってきたときすぐに言っていたら
もしかしたら違う未来があったのかなとか
どうしようもないことも考えたりもするよ
あと、あの日は新しいパンツも買ったんだ
それも「洗っておくから、明日からは新しいの履いてね」って
あとで言えばいいかって思っちゃった
なんで先に言わなかったんだろう、ちゃんと君に伝えればよかったよ
君はそれを履くこともなく、存在も知らないまま行ってしまった
そうそう、新しいタンブラーも買ったんだ
それをかわいいでしょって自慢したかったのに、それもできなかった
君は何も知らずに行ってしまったんだ
朝、いってらっしゃいも言えなかったあの日のことは、本当に後悔ばかりなんだ
一番の後悔は
大事な君を
永遠に失ってしまったこと
日々のちょっとしたことで君を思い出しては後悔する
もっと褒めてあげればよかったなって
例えば歯磨き粉を「歯が白くなるほう」を選んで使った時とか
もっとありがとうって伝えればよかったなって
例えば卵を率先して割ってくれた時とか
こんなにも早く、突然にいなくなってしまうなら
毎日毎日伝えなくちゃいけなかったね
いた1年より
失った1年のほうが、時間が経つのが早いみたい
君をもう一度だけ抱きしめたいと思いながら
1年が過ぎてしまった
お願いだから
もう一度、名前を呼んでほしい
終