忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
全力疾走した結果、ギリギリ間に合った私。
しかし汗だくで息切れしていたため、同僚たちからの引いた視線がつらかった。
どうにか息を整えて、午後の業務を始めたものの。
あの男性のことを思い出してしまって、まともに集中できたもんじゃない。
パソコンに向き合ったばかりなのにため息しか吐かない私を、隣のデスクの先輩、中本さんが困惑気味に見ていた。それに苦笑いをしながら席を立つ。
ダメだ。コーヒー飲んでちょっと落ち着こう。
諦めてパソコン画面にロックをかけ、給湯室に向かった。
私は、二階堂総合病院のすぐ近くにある大手企業である【N薬品】に勤めている。
先ほどまでいた【二階堂総合病院】と同じ【NIKAIDOグループ】に属している企業だ。
私が勤める会社は、医療機器を様々な病院に卸したり社名の通り医薬品を開発したりと、医療関係に特化した商品を扱っている。
私はその中の総務部総務課に所属しており、事務職として新卒入社した。
三年目の今年は、新人教育も任されて忙しい毎日だ。
定時は十七時半。迎えに行くと言われた時間より二時間以上早い。
まぁ、全く集中できていないから今日は残業確定コースだし、案外ちょうど良い時間かもしれない。
いや、でも傑くんに頼まれたやつも届けないといけないし……。
そこまで考えて、普通に彼との待ち合わせに応じるつもりだった自分に驚いた。
「……いや、ほら、連絡先バレてるし。逃げようがないし、ね……」
誰に言い訳しているのか自分でもよくわからないものの、ぶつぶつと呟いてコーヒーを準備した。
グイッと一杯飲んで、その苦味に眉を顰める。
「……よし、集中しないと」
両頬を軽く叩き、気合を入れて自分のデスクに戻った。