忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「唯香、この後の予定は?」
「傑くんの家に届け物しないといけないのでそれだけです。残念ながらそれ以外はございません」
「なんだ、棘のある言い方だな。急に誘ったから怒ってんのか?」
「……」
怒っているのかと聞かれたら、特別そういうわけではない。
でもやっぱり良い気はしない。
そもそも私が今日予定があったらどうするつもりだったんだろうか。それか私が待ってないで帰っていたら?この人はそういうことは考えなかったのだろうか。
悶々としている私に、天音さんは困ったように眉を下げた。
「悪かったよ。でも、お前こうでもしないと俺と話そうとしないだろ。絶対逃げると思ったから」
「……よくお分かりで」
図星なのがさらに腹立たしい。
「まぁ、その届け物とやらを終わらせてから、何か食べながら少し話そう。食いたいものは?」
食べたいもの……。昨日お金下ろしたから、財布はいつもより潤っているはず。
「え、っと……じゃあ、和食がいいかな」
パッと思いついたものを言うと、
「ん、了解」
と微笑んでから天音さんはすぐにどこかに電話をかけ始めた。
「今から二人で伺いたいのですが、個室をお願いできますか」
「えっ!?個室!?」
思わず口を挟んでしまって、見下ろすような視線を感じて慌てて手で口元を抑えた。
これ、もしかしてめちゃくちゃ高級なお店の予約をしてくれているのでは……!?
普通に居酒屋とか言えば良かった……。
後悔するも時すでに遅し。
「えぇ。ありがとうございます。じゃあ、三十分後に」
そう言って電話を切った天音さんは、
「ほら、乗れよ」
高級外車の助手席のドアを開けて、私の手を取ってスマートにエスコートしてくれる。
「いや、自分で乗れますから……」
「いいから、ほら」
初めての経験に、緊張と驚きで心臓がバクバクと激しく動く。
そんな私を知ってか知らずか、思いの外優しくドアを閉めてくれる。そしてすぐに運転席に乗り込んだ。
……左ハンドルの車、初めて乗ったかも。
運転するわけじゃないのに自分が右側にいるなんて、変な感じだ。
まぁ、そもそも私は免許はあれどペーパードライバーだから右側に座ることすらほぼ無いんだけども。