忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
天音さんの運転で傑くんの家に向かい、頼まれていた封筒を書斎に置いてから再び車に乗り込む。向かった先は、二階堂病院の近くにある懐石料理が楽しめる料亭だった。
やっぱり明らかに高そうなお店に萎縮してしまう。
オフィスカジュアルで来てしまったけれど、ドレスコードとかは問題ないのだろうか。
「いらっしゃいませ。お待ちいたしておりました。こちらへどうぞ」
出迎えてくれた和服を着た上品な女性が、丁寧に頭を下げてからにこやかに微笑んで案内してくれる。
聞いた話だとここは天音さんの知り合いが経営しているらしく、そのツテで急遽席を用意してくれたらしい。
お店に入る時も、その女性の向こうで他のスタッフの方がキビキビと忙しなく動いていたことを知っているため、なんだか申し訳ない気持ちになった。
案内してもらった個室は十畳のスペースで、そこはまるで旅館のよう。
一枚板で出来ているであろう大きなテーブルと、座椅子が二つ。促されるままにそこに腰掛けると、畳の香りが心地良く鼻に抜ける。
「何食べる?」
「えっと……私、お恥ずかしいことにこういう高級なところは来るのが初めてで。……何かおすすめありますか?」
和食の料亭なのにお品書きにはいくつか横文字も並んでいるように見える。
恐れ多くて自分じゃ選べない。
「そうか。苦手なものは?」
「特にありません」
「わかった。じゃあ無難にコースにするか」
「コース……!?」
「ん?何か問題あるか?」
「え、いや……」
思わぬ言葉に驚いて、天音さんが見ていたお品書きを見せてもらう。
コース料理の値段を確認しようとしたものの、そもそもこのお品書きには書いていなかった。
……もしや、お金持ちは値段なんて気にしないから、書くだけ無駄ってこと……?
ますます自分が場違いな気がして恥ずかしい。
……足りなかったらカードで払おう。
病院にいる時と同じ居た堪れなさを感じて、ため息を吐きたくなった。