忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「ほら、天音って呼べよ」
「や……」
「じゃないと、このままキスするけど」
「っ!?」
そんなこと言われても、いきなり呼び捨てなんて……。
でも、呼ばない限り私を解放するつもりはないようで、どんどん顔が近付いているような気がする。
「ちょっ……まって……」
「待たねぇ」
このままじゃ、本当にキスされてしまう。
なによりも、その目で見つめられているというこの体勢が恥ずかしすぎてもう無理だった。
「あ……あ、あまねっ……!」
自棄になって言葉を落とすと、彼は
「ふっ……言えるじゃん。よくできました」
と笑う。
その小さい子を諭すような返事に、自分が弄ばれたような気がして悔しくて悔しくてたまらない。
「これから俺のことはそう呼べよ。さん付け禁止」
そんなの横暴だ。そう言いたいけれど、今は離れてもらう方が先だった。
「わかりましたから、離れてください」
「呼べば離れるとは言ってない」
「なっ……!」
酷い!そんなの屁理屈だ……!
至極面白そうなその表情は、新しいおもちゃを見つけた子どものよう。
そして、そのまま顔が近付いてきて。
「っ!?」
触れるだけのキスは、私を硬直させるには十分すぎるほどだった。
「ハッ、顔真っ赤だな」
「な、な……」
何かを言い返したいのに、何も言葉が出てこない。
息の吸い方も忘れてしまったみたいに、なんだか胸が苦しくて、上手く呼吸ができない。
「何も初めてじゃないんだし。そんなに動揺するか?」
クスクスと笑いながらも、ようやく離れてくれた。それにより、やっと呼吸ができるようになった。
少なからずホッとしつつも奪われてしまった唇を思わず袖でゴシゴシと擦る。
「失礼な奴だな」
「きゅ、急にこんなことする方が失礼ですよ。セクハラです!」
「セクハラぁ?キスなんて、挨拶みたいなもんだろ?」
「ここは日本です!」
確かに傑くんと同じなら、貴方はアメリカにいたのかもしれませんけど!ここは日本だし、多分貴方もここ数年はずっと日本で暮らしているでしょう!?
そんな思いをぶちまけたいけれど、その楽しそうな顔を見ていると何かを言えば五倍で何かが返ってきそうな気がして、保身のため私はそれ以上何も言えないまま口を噤むしかなかった。