忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「いかがなさいましたか?お見舞いですか?患者様ですか?」
凛とした綺麗な立居振る舞いに、凡人の私は圧倒される。
「い、いえ……。あの、脳外科医の百瀬 傑に会いたいんですけど……」
萎縮しているのが丸わかりで情けないものの、馬鹿みたいに声が震えた。
「……百瀬先生ですか?失礼ですが、どちら様でしょうか。本日お客様がいらっしゃるとは私共は伺っておりませんが、アポイントはお取りでしたか?」
一気に目が鋭くなった女性に、私の肩が跳ねる。
「あ、……申し遅れました。私、百瀬傑の───」
続きを言おうとしたところで、
「───唯香!」
と、私を呼ぶ声が聞こえて振り向いた。
「百瀬先生!」
女性が驚きの声をあげて一礼する中、私はその無駄に高い身長と奥二重の垂れ目を睨み付ける。
「……傑くん!遅い!」
「ごめん唯香。オペが思ってたより長引いた」
「ロビーまで迎えに来てくれるって言うから来たのに。私ここ来たの初めてなんだから、ちゃんと待っててくれないと困るよ」
なるべく目立たないように小声で文句を言う私をまぁまぁと嗜めるこの男に、私は一つため息をこぼす。
「悪かったって。ほら、行くぞ」
事態を飲み込めていないレセプションの女性に
「お騒がせして申し訳ございませんでした」
と深々と頭を下げてから、すでに歩き出した傑くんの後ろを追いかけるように足を進めた。
目の前を歩く医者は、百瀬傑。三十五歳。私、春風 唯香の従兄妹だ。私よりも十歳年上の彼は、この病院に勤める脳外科医だ。
今も白衣を身に纏い、その首の後ろから胸にかけて聴診器がぶら下がっている。胸ポケットに入っているであろう端末は、患者の急変の知らせや急患の知らせの度に大きな音を鳴らす。
傑くんが歩けば、看護師や関係者は皆揃って頭を下げたり端に避ける。
この病院で百瀬傑と言えば、脳外科の中でも一、ニを争うエリート医師なのだ。