忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「おい、傑?梨香子さん?……マジかよ。二人とも馬鹿みてぇに酔ってんな」
傑くんと同年代の男性、それが天音だったのだ。
天音は目の前の酔っ払いを見て、深いため息を吐く。
そしてふと視界に私が入ったらしく、
「……ん?お前誰?」
と雑に声をかけてきた。
「……私?傑くんの従兄妹」
「へぇ。こいつに従姉妹なんていたんだ?」
物珍しそうな顔をして、私が飲んでいたワイングラスをひょいと持っていく。
「あ」
「お前がどれくらい酒強いのかは知らねぇけど、飲み過ぎたらこいつらみてぇになるぞ」
そんなことを言われても、実はもうすでに梨香子さんにガンガンに飲まされてしまい、頭はふわふわしていた。
「だって、私が飲まないと梨香子さんがこれ全部飲むとか言うから。これ以上飲ませたら私が傑くんに怒られちゃう」
「いや、この調子じゃもう手遅れだろ」
「……」
天音がワインを飲みながら指差した先には、いつのまにか寄り添うように寝てしまった二人の姿。
「ハメ外しすぎだろ。ガキかよ」
「まぁ、仕方ないですよ。酒癖の問題で梨香子さん、滅多にお酒飲ませてもらえないって前に嘆いてたから」
とりあえず二人を運ぼう。そう話し合って私は梨香子さんを、天音は傑くんを。
ラウンジのスタッフに天音が流暢な英語で声を掛けてくれて、とりあえず腕を肩に回してどうにか起き上がらせて、二人の部屋に運んでベッドに寝かせた。
「さて、あの残ったワイン、どうする?」
「……もったいないから飲もうかな」
「お前も酔い潰れて寝るとかやめろよ?」
「大丈夫。まだ酔ってないし」
そんな強がりを言って、二人並んでラウンジへ戻る。
どちらも自己紹介をしなかったため、お互いの名前すら知らない。会話も特に無いまま、ひたすらお酒を飲んだ。