忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
エレベーターに乗りこむと、傑くんは行き先のボタンを押してくれた。どうやら向かう先は十階らしい。
この病院は一階と二階がロビーとなっており、三階にはコンビニやレストラン、入院患者用の美容室やネイルサロンまである。
四階から上が病棟で、最上階である十二階は院長室とその他重役の部屋があり、限られた人物しかエレベーターのボタンすら押せない仕組みになっているのだと、傑くんに聞いたことがある。
一切の揺れを感じないまま小さな音を奏でて到着を知らせたエレベーター。開いた扉から降りると、やはりそこはホテルのフロアのような煌びやかな空間だ。
そのまま少し歩き、奥にある大きな扉の前で止まった。
そこはどうやら病室のようで、"1005"と部屋番号だけが記載されている。そこにノックもせずに、傑くんは扉を開いた。
「梨香子、唯香が来たよ」
「……し、失礼します」
ちょいちょいと手招きされて、私も恐る恐る病室に入る。
中は十五畳ほどの広い部屋になっており、扉から向かって左に大きなクイーンサイズのベッド。その反対側にはソファとテーブル。大きなクローゼットと壁掛けの大画面の液晶テレビ。
奥には簡易キッチンに冷蔵庫まであり、病院なのにそこらへんのアパートよりも綺麗で設備が整っている。むしろ私の家よりも豪華だ。
もはやここに住めそうな気さえしてしまう。
そんな部屋のベッドには、私もよく知っている人物がいた。
「……梨香子さん」
「唯香ちゃん、ごめんね。こんなことお願いしちゃって」
「いえ、いいんです。些細なことですし、梨香子さんの頼みですから。私で良ければいくらでも使ってください」
「本当にありがとう。助かるわ」
百瀬 梨香子。ここまで案内してくれた傑くんの奥さんだ。
梨香子さんは現在妊娠九ヶ月で、もうすぐ第一子が産まれる。ここ、二階堂総合病院の産婦人科で入院しているのだ。