忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
結局終わったのは定時から一時間後。
急いだのと、同僚たちと協力できたこともあり思っていたよりも大分早く終わらせることができた。
「はぁー、終わった!ねぇ春風さん、お疲れ様ってことでこの後飲みに行かない?」
先輩にそう声をかけてもらったものの、
「すみませんっ、今日はちょっと先約がありましてっ」
と申し訳ないものの断りを入れる。
「あら、そうなの?じゃあまた今度飲みに行こ。気を付けてね」
「はい。お先に失礼します。お疲れ様です!」
「お疲れ様ー」
先輩に挨拶をして急いでフロアを飛び出して、トイレでほんの少し化粧直しをして自社ビルを出た。
仕事が終わりそうな頃に天音に連絡していたからか、すでに天音は会社の前で私を待っているらしい。
……あ、これ、もしやまた噂になるやつでは……?
そういえば会社に迎えに来ないでって伝えるのをすっかり忘れていた。
今になって気が付いたものの、仕方がない。
それに今日は前回とは違う車に乗って待っていたらしく、外には出ていない。
安定の高級車で目立ってはいるものの、前回よりはオーラが隠されているから大丈夫なのではないか。
そんな淡い期待を持ちつつもその車の運転席を覗き込む。すると、そこには天音ではない男性の姿があった。
「あれ?」
間違えてしまった。恥ずかしくて慌てて頭を下げてその場を立ち去ろうとする。
しかしその瞬間、後部座席の扉が開いた。
「唯香」
「あれ?……天音……」
中から出てきたのは天音で。
珍しくスーツを着ている姿に、意味が分からなくて戸惑う。
「お疲れ。乗れよ」
開口一番掛けられた優しい言葉。
予想よりも柔らかい声色だったからか、調子が狂う。
「あ、ありがとうございます……」
小さくお礼を告げると、面白そうにフッと笑って私の手を取り、車に乗せてくれた。
当たり前だが、隣に乗り込んだ天音。
いくら車内は広いと言っても、距離が近くてなんだか緊張する。