忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「っ!」
「何、緊張してんの?」
「し、してな……」
「ん?」
こちらを振り向いた天音と目が合う。
至極楽しそうなその視線が、私を射抜くように見つめてくる。
それにドクンと、胸が一つ高鳴る。
「……してる、……かも」
「ふはっ……」
「なっ!笑わないでください!」
吹き出すように笑った天音は、「悪い悪い」と言いながらも私の手を離すつもりはないらしく。
「本当、お前可愛いな?」
それは片目を瞑りつつ笑う、とても無邪気なのに綺麗で、可愛いのにかっこいい笑顔。
まさか天音からそんな表情と言葉が飛び出してくるとは思っておらず、私はそれに不意打ちをくらって言葉を詰まらせた。
みるみるうちに真っ赤に染まる頬。
運転手さんにこの一部始終を聞かれているというのがあまりにも恥ずかしくて、私は耐えられそうになくて顔ごと窓に逸らす。
しかし手は握られたまま。
反対の手で熱を冷まそうと顔を仰ぐものの、そんな些細な風で冷めるようなものではない。
せめてもの抵抗で、視線をずっと窓の方に向ける。
しかし外が暗いから、窓ガラスに天音がこちらを見ているのが写ってしまい。
天音とガラス越しに視線が交わる。
フッと笑った顔がとても綺麗で、それにさらに赤面してしまう単純な自分が悔しくてたまらない。
ガラス越しでもわかるくらいの真っ赤な顔の私。
それがどうしようもなく恥ずかしくて下を向く。
隣からまた笑い声が聞こえた気がするけれど、もう顔を上げることはできなかった。
そんな私を面白がっているのか、気が付けば手はいつのまにか恋人繋ぎのように指を絡められていて。悔しいけれど、それはとても温かかった。