忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「俺もここに来たのは久しぶりなんだ。美味いワインを取り寄せてもらったから、一緒に飲もう」
「は、はい……」
アミューズが運ばれてきて、グラスには赤ワインが注がれる。
総支配人の相原さんがそのワインについて説明をしてくれているものの、この非日常の雰囲気に圧倒されてしまった私には何一つ頭に入ってこなかった。
控えめに乾杯をした後に、促されるままにグラスを口に傾ける。
「……あ、甘い。フルーツみたい」
「唯香、こういうの好きだろ?」
「はい。……でも、どうしてそれを」
私、ワインの好みなんて言ったことないはず……なんだけどな。
確かに私はこういう甘くてフルーティーなワインが好きだ。傑くんの結婚式で飲んだワインはもっと甘かったけど、これもまたおいしい。
でもどうして天音が知ってるんだろう。傑くん?いや、傑くんこそ私のワインの好みなんて知らないし興味もないだろう。
でもじゃあ、どうして?
「さぁ、なんでだろうな?」
嬉しそうにはぐらかす天音は、そのままアミューズを口に運ぶ。
「うん。美味い」
綻ぶ顔を見ていると、どうやら答えるつもりはなさそう。
まぁいいか。
そう思って私も美味しい食事に酔いしれた。