忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
食事が終わると、健全に車でアパートの近くまで送ってくれた。
「今日はありがとうございました。服も、食事も。ごちそうさまでした。おいしかったです」
「あぁ、気にすんな。俺が勝手にしたことだし」
天音はわざわざ車を降りて、私が住むアパートまで送ろうとしてくる。
本当は車で家まで送ろうとしてくれたようだが、私が頑なに断ったからだろう。
「いや、ここでいいですから」
「なんで?送るよ。もう夜遅いし」
「いえ、結構です!失礼します!」
あんな高級なお店に日常的に行く人に、私の住むアパートなんて見られたくない。
今日食事に行って、改めて思った。きっと天音は、都心のタワマンとかに住んでいるのだろう。私とは住む世界が違う人だ。
どうして天音が私を食事に誘うのかはよくわからないものの、どうせ久し振りに再会した一夜の過ちの相手をからかいたいのだろう。
ただの気まぐれに違いない。
飽きたら連絡もして来なくなるに決まってる。
そんな人にあんなボロいアパートを見られるのは癪だ。
そう思って一人、早く帰ろうとヒールを鳴らしてアパートまで歩いていると、小石か何かに蹴つまずいてしまい身体が前のめりに傾いていく。
慣れない服装をしているからだ。上手くバランスが取れなくてそのまま転びそうになってしまい、「わっ!?」と声が出た。
ギュッと目を閉じて痛みに耐えようとした時。
グイッと腕を引かれ、何か温かいものに包まれた。
「危なっかしいな、お前」
目を開けて見上げると、そこには呆れたような天音の顔が。ドクン、と胸が大きく音を立てる。
「……え、なんでここに」
抱き着くようになってしまっていたため、慌ててその胸を押して身体を離した。
転びそうになったからか、バクバクと鼓動がうるさい。
身体は何も痛くないのに、どうしてか胸が苦しい。