忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜



「入院生活はどうですか?」


「うん、何もしないでって言われると逆に困っちゃって、ずっと本読んだりテレビ見たりしてる。ダラけてるから、この子が産まれた後にちゃんと母親が務まるのか、とても不安よ」



妊娠後期になって急に血圧が上がってしまった梨香子さんは【妊娠高血圧症候群】と診断され、お腹の中の赤ちゃんに危険が及ばないように大事をとって入院することになっていた。


すでに一ヶ月ほどが経過しており、幸いにも今のところ安定しているためもう少しで予定帝王切開で出産する予定だ。


そんな梨香子さんの元に、何故私が呼ばれたのか。



「本当にごめんなさいね。突然着替え持って来てだなんて」


「いえ、傑くんじゃ忙しくてそんな暇無いでしょうし、全然大丈夫ですよ。むしろ私が勝手にクローゼット開けちゃって良かったんですか?」


「うん。唯香ちゃんなら全然良いの。助かったわ。ありがとう」



梨香子さんが入院前に用意していた出産後に使う洋服や下着の数々。


まさか出産まで入院することになるなど微塵も思っていなかった梨香子さんは、すっかり持ってくるのを忘れていたらしい。ちょっと、いや大分抜けている人なのだ。


最初は傑くんに頼んだらしいものの、梨香子さんの産後に少し休暇を取るために今のうちに手術の予定をできる限り詰め込んでいるらしく、家に帰っている暇が無い。


そこで白羽の矢が立ったのが、私だった。


この病院と二人の自宅マンションのちょうど間にある会社に勤務している私。


朝傑くんから電話があり、"悪いんだけど、梨香子の着替え持って来て欲しいんだよね"と一方的に言われて電話を切られた。


梨香子さんにかけ直すと、平謝りで着替えを持って来て欲しいとお願いされたわけだ。


いつも何かが必要な時は傑くんの母親が持って来てくれるらしいのだが、さすがに義母にクローゼットを探されるのは嫌だったらしい。


私だってポジション的には似たようなもののはずなのだが、昔から妹のように接してもらっているからだろうか、どうやら私は例外らしい。


梨香子さんが入院した時に、"何かあったら頼るかもしれない"と言われて半強制的に合鍵を渡されていたものの、まさか本当に使うことになろうとは。


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