忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「いやなんでって言われても。お前のあと着いてきただけだけど」
「送らなくていいって言ったのに!」
「んなわけにいかねぇだろ。夜道に着飾った女一人で歩かせるわけねぇだろーが」
「……」
「俺のエゴで着させといてアレだけど、自分の服装見てみろ。そんな格好で酔った状態で夜道を一人で歩いてたら、襲ってくださいって言ってるようなもんだぞ?」
そう言われてしまうとぐうの音も出ない。
心配してくれているのはわかるから、「……すみませんでした」と呟いた。
「……悪い。説教するつもりじゃなかったんだ。ただ俺が心配だっただけ」
「……大丈夫です。ちゃんとわかってます」
天音は、数回頷いた後に下を向いた私の手を取りゆっくりと歩き出した。
必然的に私も足を進めることになり、ヒールの音が辺りに響く。
「っと、足捻ったりしてないか?」
「はい。それは大丈夫です」
「そうか。細い脚してるからすぐ折れそうで俺は気が気じゃない」
「そんっ……そんな、細くもないです。それにそんなヤワじゃないから簡単には折れません」
「ふはっ……そうか。そうだな」
馬鹿にされているのがわかって言い返すものの、それじゃあ天音の思う壺だということに答えてから気が付く。
至極楽しそうに笑う天音は、繋がれた手をギュッと握る。
次第に私の住むアパートが視界に入ってきた。
思わず足を止めた私を、天音は不思議そうに見つめる。
「……どうした?もう家着いたのか?」
コクン、と頷いた私に、天音はきょろきょろと辺りを見回す。
「着いたなら、早く入らないと。風邪引くぞ」
「……その、アパート。古くてボロいから、見られるの恥ずかしいです……」
「あ?んだよ。そんなことか?別に気にしねぇよ。古くてボロいって……ん?あれか?言うほどボロいかあ?別に普通じゃね?アパートなんて皆あんなもんだろ。ほら、とっとと入るぞ」
「えっ、ちょっと……!?」
グイッと繋がれた手を引っ張られて、前のめりに足を進める。
私の住むアパートへ一直線に進む天音の顔をチラリと見上げると、本当になんとも思っていないのか首を傾げながらアパートを見上げている。