忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
呼び起こされる記憶
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それから二週間が経過したある日。
「梨香子さん、本当にお疲れ様でした。おめでとうございます!」
「ありがとう唯香ちゃん」
私は今、二階堂総合病院の中、梨香子さんの病室で興奮冷めやらぬ状態で梨香子さんに尊敬の眼差しを向けていた。
「唯香ちゃん、良かったら抱っこしてくれる?」
「えぇ!?良いんですか……!?」
「もちろん。唯香ちゃんがとても楽しみにしてくれてたの、私知ってるもの」
「そんな、嬉しいです……!」
五日前、梨香子さんは帝王切開で第一子となる女の子を出産していた。
傑くんからすぐに連絡があったため生まれたことは知っていたものの、さすがにすぐに行くのは憚られたため梨香子さんの体調が落ち着いたら行く、と傑くんに伝えていた。
そして今日、梨香子さんから直接連絡がありここにきたのだ。
まだ生後五日のほわほわの赤ちゃん。
こんな小さい肌着を着られるのだろうか、なんて思っていた新生児用の肌着が、とても大きく見える。
タオルで大切に包まれた赤ちゃんをそっと梨香子さんの腕から受け取る。
「……うわぁ……可愛い……」
思わず目尻が下がるのは、私の腕の中で赤ちゃんがすやすやと眠っているからだ。
タオル越しでも感じるその温もりと、思っていたよりもずっしりとした重みがすでに愛おしい。
あまりの可愛さに、顔の締まりが無くなっていく。
起こさないように梨香子さんの腕に戻すと、心なしかその表情がほんの少し柔らかくなったような気がした。
「仕事終わりで疲れてるのに、ごめんね?急に呼んじゃって」
「全然ですよ。むしろ疲れてるのは梨香子さんの方でしょう?傷口もものすごく痛いってネットで見ました。ちゃんと休める時に休んでくださいね」
「ありがとう」
梨香子さんに挨拶して、赤ちゃんの写真を一枚撮らせてもらって病室を出た私は、前回と同じくエレベーターに乗って一階へ降りる。
時刻は既に二十時。面会時間も終わり、ロビーはクラシックが流れているだけで誰もおらず、外はすでに暗くなっていた。