忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
私も何度か来たことがあり、気兼ね無く入ることができるお店で安心する。
ドアを開けてさりげなくエスコートしてくれる天音。
「ここは俺の知り合いが経営するグループの店なんだ」
歩きながらそう説明してくれた。
「えー、そうなんですね!私もここ、何度か来たことあります」
「結構人気らしいな」
「はい。いつも女性で賑わってますよ」
「俺もそう聞いたよ。アルコールの種類に力を入れてるって言ってたな」
「そうですそうですっ、ここのメニュー、本当に幅広いんですよ。スペインのビールとかも美味しいですよ!」
案内された席でメニュー表を見て、天音にあれこれとプレゼンしていく。
ハッと気が付いた時には天音は楽しそうに私を見つめていて。
「じゃあ、今日は唯香おすすめのそのビールにしよう」
と嬉しそうに頷いてくれた。
「す、すみません。はしゃぎすぎました……」
「なんで謝んの?いいじゃん。俺はそれくらい唯香にくだけてほしいんだけど」
「く、くだけるって……」
「初対面なんて、お前タメ口だっただろ?」
「そ!それは言わないでくださいっ……」
あまりの失態の数々に、思い出して落ち込んでしまうから。そして赤面してしまうから!
頭を抱えたくなった私を見て小さく笑った天音は、ビール二人分と適当につまみになりそうなものを選んで注文してくれた。
「今更慣れない敬語とかいらないって言ってんだよ。俺にはもっと楽にしてていいよ」
「……」
「じゃないと、……また飲ませて潰れさせて、お持ち帰りするけど」
「なっ!?」
囁くような小さな声に驚いて肩を跳ねさせる。
みるみるうちに真っ赤に染まっていく私の頰とは対称的に、天音はどこか余裕のある涼しい顔で私をじっと見つめてくる。
「どうする?またお持ち帰り、……されてみる?」
天音はそう言って、グッと私に手を伸ばして頰をするりと撫でる。
触れただけなのに、それはどこか官能的で。
全身からブワッと気持ちが昂るのを感じた。
思わずその昂りに流されて、コクンと頷きそうになってしまったものの。
「失礼いたしまーす」
タイミングよくスタッフの方がビールとつまみを持ってきてくれて、強制的に天音の手は離された。