忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「……」
ちらりと天音の様子を伺うと、なんだか少し不機嫌そうにも見えた。
邪魔されたとでも思っているのだろうか。
いや、そもそもあんな雰囲気のところを周りに見られていた方が恥ずかしい。
しっかりしないと、お酒の勢いもあってまたお持ち帰りされてしまう。
首を数回横に振ると、天音が不思議そうにこちらを見つめながらビールが入ったジョッキを手渡してくれた。
「ありがとうございます」
呟いて、ジョッキを軽く持ち上げて乾杯した。
「……ん、確かに美味いな。人気なだけある」
苦味が少なくて飲みやすく、私がこのバルで一番好きなビールだ。
いつ来ても変わらない美味しさに、自然と顔が綻ぶ。
「飲み過ぎんなよ?」
「大丈夫ですよ。さすがに自分でセーブできますから」
「ふーん?ならいいけど」
私を見て面白そうに笑う天音。
ようやくアルコールが飲めるようになってハメを外す二十歳そこそこの大学生じゃあるまいし、自分で飲む量くらいは調整できる。
馬鹿にしないでほしい。
美味しいビールに上機嫌になった私は得意気に微笑んだ。