忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
─────
「唯香」
「だからぁ、もう一杯だけ!」
「飲み過ぎだ。もう帰るぞ」
「いやだぁぁ……もう一杯だけ!」
「はぁ……だから飲みすぎるなって言っただろーが……」
楽しい。楽しくて笑いが止まらない。
どれくらい時間が経ったのかもわからないし、ジョッキでビールを何杯飲んだかもよく覚えていない。
けど美味しいし楽しいから何も気にならない。
天音が目の前でなんだか頭を抱えているような気がするけど、楽しいんだからビールくらいもう一杯飲んでも良くない?
……あれ?そう言えばなんで私、天音と一緒にお酒飲んでるんだっけ?
んー……、よくわかんないけど、楽しいからいっか!
「はぁ……。じゃあ本当に最後の一杯だからな。これ飲んだら帰るぞ」
「はぁーい。やったー」
子どもみたいに喜ぶ私を、天音は呆れたように見つめる。
「吐くなよ?」
「だいじょーぶ!私吐かないタイプ!」
「ダメだ、全く信用できない……」
「なにー?」
「……いや、何でもない。ゆっくり飲め」
「うん!美味しいー!」
これが最後の一杯なのは物足りない気もするけれど、約束してしまったから仕方ない。
おいしく味わって、天音に腕を引かれて外に出た。
「天音!次のお店に行きましょう!」
「お前マジかよ。さすがに飲み過ぎだから帰るぞ」
「えぇー!まだ飲み足りないのに!」
自分ではまっすぐ歩いているつもりなのに、天音が横から無理矢理身体を支えようとしてくる。
ちゃんと歩けるんだから、とその手を振り払うものの、少しよたってしまってまた天音の腕が伸びてきた。
「……こりゃ駐車場まで持たないな……」
駅の駐車場に向かっていたはずなのに、気が付けば天音はタクシーを呼び止めていて。
「あれ?車は?代行は?」
「お前もう歩けてねぇから、車は置いて帰る」
「えー?私ちゃんと歩けてるのに」
「あーはいはい。とにかく乗るぞ。ほら」
「はぁーい」
よくわからないけれど、あんまり頭が働かないから考えるのをやめてタクシーに乗り込んだ。
シートに腰掛けると、ぷつりとスイッチが切れたかのようにすぐに瞼が重くなる。
「唯香?住所言えるか?」
「んー……天音、答えといて……」
「……いや、流石に詳しい住所まではまだ覚えてねぇよ。おい、寝るなって……」
そんな天音の声を最後に、私は幸せな気分で眠りに落ちた。