忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
ゆらゆらと、心地の良い揺れで意識が少しずつ浮上する。
うっすらと瞼を持ち上げると、ちょうど身体がどこか柔らかい場所に沈み込むところだった。
肌触りの良い滑らかな何かが触れ、それに頰を擦り寄せた。
「……お前は猫か」
ふと聞こえてきたそんな声に、ゆっくりと重い瞼を押し上げる。
「……ん……?」
「……ん?起きたか?」
霞む視界の向こうで、なんだか見覚えのある顔が見えた。
眉を顰めて目を擦ろうとすると、伸びてきた手が私の手を掴んで止める。
「化粧がよれるぞ。それに強く擦ったら赤くなるからやめろ」
「……」
なんなんだ。視界が霞んでいるから目を擦ろうとしただけなのに。
それならまた眠ってやろう。せっかく気持ちよく寝てたんだから。
気を抜くとすぐに遠のいていく意識。
それに抗うのをやめてそっと身を委ねようとすると、次の瞬間。
唇に、何か柔らかいものが押し当てられた気がした。
「……んん……?」
それは、温かくて、優しい。
なんだか両手も温かいものに包まれているような気がする。少し身体が重いような気もする……。
ん?あれ?待って?何かおかしくないか?
唇に柔らかいもの?温かい?あれ?私、さっきまで天音と一緒にバルでお酒飲んで……え!?
あんなに重かった瞼が、一瞬で開いた。
まだ少し霞んだ視界の中で、ドアップの顔が映る。
「んんっ!?」
長い睫毛と毛穴ひとつ無い綺麗な肌。それが天音の顔で、今まさにキスされているのだと気が付いた時。
離れるために起きあがろうとしたものの、両手を押さえつけるように繋がれており、私の足の間に天音の足があり上手く力が入らない。
しかも私が目が覚めたことに気が付いたのか、舌で私の唇をこじ開けて私の舌を絡めとる。
「んっ……まっ……あまっ、ねっ」
お酒で酔っているからだろうか。突然の深いキスに思考が停止し、身を委ねることしかできない。
何度も角度を変えて、しっとりと優しく甘いキスで私の身も心も翻弄していく。
次第に私も無意識にそれに応えるように舌を絡めると、先程までの優しさはどこへ行ったのか、すぐにそれは激しいものに変わる。
「んあっ……はぁっ……」
息を吸うのが精一杯で、すぐに酸素が足りなくて頭がまたボーッとしてくる。
どれくらいキスをしていたのだろうか。
お互いの唇が離れた頃には、私はすっかり息切れしてしまい瞼から生理的な涙がこぼれ落ちた。