忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
「……悪い。やりすぎた。大丈夫か?」
私が嫌がって泣いていると勘違いしたらしい天音は、困ったような申し訳なさそうな声で謝りながら私の目元を優しく拭う。
息切れしている私は、今の状況が全くわからないため何も言えず、ただ首を数回横に振った。
「ちがくて……その、酸素、足りなかっただけで……」
「悪かった。つい止まんなくて」
そう言って私から離れた天音は、
「一旦起きて水飲んだ方がいい。脱水になる」
と私をそっと起き上がらせてくれる。
確かに頭がクラクラしているような……。
それは脱水のせいなのか、激しいキスのせいで酸欠になりそうだからなのかはわからないけれど。
差し出されたミネラルウォーターのペットボトルをありがたく受け取るものの、手に力が入らなくて上手くキャップを捻ることもできない。
見かねた天音がキャップを開けて口元にペットボトルを運んで傾けてくれる。
「自分で飲めるからっ……」
「いいから、ほら」
私の様子を見ながら少しずつ水を飲ませてくれた天音は、私がごくりと飲み込んだのを確認すると再び横になるように言った。
それに従う前に、周りを見渡す。
どうやらここはベッドの上のようだが、どう見ても私の家のものではない。我が家のシーツはこんなにサラサラではない。
しかし先程のキスの衝撃が強すぎた余り、ここが自分の家じゃないことに関しては大して驚かなかった私は、
「……あの、ここは……?」
と恐る恐る天音に問いかける。
「ん?あぁ、俺ん家。唯香タクシー乗った瞬間に寝ちまったし、さすがに俺も唯香の家一回しか行ったことねぇから詳しい住所までは覚えてなくて。アパート探して無闇にタクシー走らせるわけにもいかねぇし、鞄漁って免許証見るわけにもいかねぇだろ?だからここに連れてきた。今回の持ち帰りは不可抗力だ」
「……すみません。ご迷惑をおかけしました」
ここに来た経緯を知り、頭を抱えたくなる。
もしかして私、とんでもない酔い方して天音に絡み酒してなかった……!?
一気に酔いが覚めた私は、土下座の勢いで天音に頭を下げた。
「やめろって。顔上げろ。俺が勝手に連れてきただけなんだから」
「いや、でもあれだけ言ってたのに飲みすぎたの私だし……」
自分でセーブできると豪語しておいてこれだ。
終いには天音にこんな迷惑までかけて、情けないにも程がある。